【一月号】酒客笑売 #009【キ刊TechnoBreakマガジン】

たった今、次の日曜のプレゼンの担当者であると連絡があった。

今年度は十月末の一度きりと伝えられており、日曜は司会を任されていたため、非常に憤慨している。

怒りに身を任せるのは全くの快感である、と言うことに気付くまで色々な試行錯誤があった。

新年なので、新年会の景気の良い話でもと思ったが、三年ぶりに会って何を話したやら碌に覚えていない。

だから、私がむしゃくしゃした時の話を書く。

駆け出しの頃だが、会長と呼ばれ出していた。

当時から部長の、剣道でもやらせた強そうな大男で、実は『男はつらいよ』の鑑賞とかが好きそうな奴がいた。

私のごとき三下が口をきくような機会なぞなかったが、デスクにいるとよく大声が聞こえてきた。

「ったく仕方ねぇ奴だな、言っとく言っとく!」

と、部下や同僚の不心得や不行き届きを、自分から指導するという風な発言だ。

その年に通しで観察しておいおいと思ったのだが、どうやら口だけでは「言っとく言っとく!」と言っておきながら、何も果たしていなかったのだ。

以来、総務部長の宮川は、図体ばかりデカい意気地なしと認識されている。

それからしばらくの忘年会。

一次会は焼肉で、二次会が狭苦しい大衆酒場のテーブル四席に散り散りになって行われた。

したたか酔っており、千円札をストロー状に丸めたのを咥え、ライターで火をつけようとしているのを止められたのを覚えている。

私のテーブルには同期の塩屋、二つ後輩の女子社員である松木が座っていた。

宮川も当時は大いに傲っていたから、先輩風を吹かせて二次会まで出張って来ていたが、我々の卓から対偶の位置にある卓に居た。

塩屋も松木も、当時は宮川の部署だったので、自然話題はそちらへ逸れた。

「やっぱり米は美味ぇんだよ!」と濁声で宮川の真似をする塩屋。

別の飲み会で、宮川が日本酒好きで焼酎も米に限ると気取った事を言っている様子の再現だ。

塩屋も松木も、宮川の酒癖の悪さ、絡み酒にうんざりしているらしく、対応にはとうに慣れている。

塩屋が相槌を打ち、松木が酌をする、そうこうしている内に宮川は満足して大人しくなる。

その日も宮川の「米」発言に塩屋が正面から相槌を打ち、松木の手元のボトルを右隣から酌していたらしい。

すると、

「焼酎も米でな、それならロックが美味ぇんだよ!」

と日本酒から焼酎に代えた宮川が大声で息巻いていると、松木が塩屋にだけわかるように指差したボトルにはキッチリ“麦”と書かれていたらしい。

「もうパンを食え、パンを!」

「日本人が米と麦、間違えちゃダメですよね」

「貧乏人は麦を食え!」

鬱積していた我々はさんざんにこき下ろした。

最後の発言は池田勇人の言葉を借りた私のものだが、それでも百年前とかに日本人全体が毎日米を食べられていた訳ではないと言うことは付記しておく。

こちらの盛り上がりが誰の話題かも知らぬままに、宮川の大声がこちらに聞こえてくる。

意気地なしの碌でもない放言の類だ。

私はトイレに行きたくなった。

そう言えば、宮川は店の前に自転車を乗り付けて停めていたっけ。

あれのタイヤにじゃあじゃあやって仕舞えばさぞや気分も晴れるだろうと思った。

が、私自身、意気地なしだからやらなかった。

ちなみに、自転車には前輪に金属の短い棒を差し込む型ではなく、後輪を蹄鉄状の金属で止めておく型の鍵が取り付けられていた。

宮川との思い出はこれくらいしかない。

さて、十年近く昔の忘年会の話では、新年の記事に締まりがないから付け足そう。

先週の金曜に、大学の同期と高田馬場で新年会をした。

丁度、環状赴くままが目白ー高田馬場に当たる月だったので、彼らと歩いてから新年会と言う算段である。

道程は月末の記事にするとして、ここには飲み会の話を書く。

その場には、ジマ氏とグチ氏と私、それに加えて、私の交友関係に興味を持ったらしいShoも、華金気分でやって来た。

結局、何度繰り返したか分からない、昔話のプレイバックと言った会だったが、のこのこ顔を突っ込んだShoは初めて聞くような話が多くて楽しそうにしていた。

ジマ氏は数年前に北朝鮮へ渡朝し、この世の楽園で監視の役人と三泊して来た話をした。

ガタガタの高速道路を走行中に、フロントガラスに何かがぶつかり、運転手がその雉を捕まえて鍋にしたと言うのは何度聞いても笑える。

ジマ氏から四年の九月下旬にヨーロッパ周遊を持ちかけられて、初日にオランダに降り立った時は思い出す度に愉快になる。

「お前だけは誘ったら快諾するって信じてたから」とジマ氏が言ったのを聞いて、Shoは目を丸くさせていた。

ちなみに、その前の月に私は左腕に大火傷を負ったのだが、その現場に居合わせていたのがグチ氏である。

久しぶりに事の経緯をグチ氏から聞かされたが、彼はもう話すのもうんざりと言った有様である。

私の近況報告として、プレゼンで半気狂いになって喋り倒し、コイツに重要な仕事は任せられないと思わせるようにしていると言ったら、それは特に学生時代から変わっていないと二人から頷かれたのだが、今の人格は『カラマーゾフ』仕込みだからそんな事は無いはずである。

三月には卒業式で起きたことを覚えている限り書き残すつもりだ。




#009 酩酊原点高田馬場ーSai Baba Punk2023ー