【五月号】環状赴くまま#009 西日暮里-田端 編集後記【キ刊TechnoBreakマガジン】

まだ陽が出ていることを懸念しながら、西日暮里にたどり着いた。

しばらくこの嫌な感じが続く事になる。

18時半、帰宅者たちの波が途切れることのない駅前である。

シャッターを切るのに難儀し、不審な目で見られたかもしれない。

少し歩いた所にセブンイレブンがあるのがやや不便で、エビスビールの取り扱いがないことは非常に不便に感じた。

ロング缶は残り半分でぬるくなるのでショート缶で出発した。

いい飲み屋というのは隠れているもので、駅前は殺風景だ。

おさらいすると…

前回のゴールで伺った千べろの喜多八さんは、良し、後で気付いたのだが、チレ串を注文しておけばよかった。

普段Kと訪れているのが、一つ向こうの路地にある千べろの三吉さん、ポタージュ風味のモツ煮はもう十分だがそれ以外はリーズナブルで種類が豊富。

大勢で飲むときによく利用する筑前屋さんが、西日暮里では韓国料理の李朝園さんと融合しているので、注文の幅を広げたいときには来たい。

ではおさらいを終えて出発する。

改札の向こう側にある路地から田端駅に向けて北上。

信号の先にあるさくら水産とミライザカが殺風景さに拍車をかけるかのようだ。

両店に挟まれた路地を行きながら、私は日暮里ー西日暮里間で感じた死の予感に、再び囚われそうになっていた。

繰り返しになるが、帰宅者たちの波は途切れることがない。

駅から離れたため、人混みと感じることはないのではあるが。

そこを駅へ向かって、手に手にA4サイズの洋菓子の手提げを持って、帰宅者たちと逆向きに歩くのは喪服姿のサラリーマンたちだったことが尚更不気味だった。

涼しい風がそよいでいたのがジャケット姿にせめてもの救いだったか。

T字路を左方向へ、そのまま真っ直ぐ歩けば次の駅に着きそうだ。

非常にシンプルなのだが、趣きのある風情が立ち並んでいる。

このポンプ置き場もまた、T字路の起点だった。

後ろを振り向いて一枚。

左方向には駐輪場が続くのでさらに北上していく。

と、右手に廃墟らしき建築物。

大学の研究棟かと思えたが、施設として生きている感じはしない。

帰宅者の群れを受け入れる街にポツンと現れる死の感覚。

後日調べると荒川区立道灌山中学校跡だという。

太田道灌公は日暮里駅前に碑が立っていた。

信長の野望で都心を選択すると太田家で始めることになる。

隣にはすぐまた駐輪場が、あるのだが、道が右へ九十度折れている。

地図を確認すると、真っ直ぐ続くはずだった道を一本間違えて進んでしまったようだ。

スタートから十五分経っている。

うなだれながら急ぎ足で来た道を戻った。

ポンプ置き場で見過ごしていた掲示板。

妙な自負心を感じる街の宝石店、珍しくて振り向いて撮影した。

気を取り直して、改札正面の路地に移動して再北上。

ゆるやかな坂がしばらく続く。

沈んだ気分は最低辺にある。

選択を誤るとまた行き止まりに着くことになる、表示に従えるので助かった。

ここらで尾根に到着した。

なんとも見晴らしが良い。

素晴らしい。

日光から中禅寺湖へ向かう途中、いろは坂を過ぎて明智平ロープウェイの展望台に着いたときに感じた開放感であると言っても過言ではない。

ただ見晴らしが良いだけではない、ここはこの尾根道が良いのだ。

感慨に浸っていると回送電車とすれ違ったのだが、誰も乗っていない電車の死の予感が、今は不思議と肯定的に捉えられた。

誤解のないように繰り返すが、見晴らしが良いことは言うまでもない。

この時、十九時前である。

幽明境を異にする夏の黄昏時が、死の空恐ろしさを生の充溢へ一変させてしまったのだ。

引き続き一本道、しばらくは下り坂だ。

先ほど私が言った、尾根道の良さが伝わりそうな写真が撮れた。

熱いコトワリと書いて、熱理さんの工場が蒼然と現れた。

映していないのだが、この逆側には安心のスーパー、マルエツさんが存在する。

その先に、少し歪な四叉路があった。

今日のゴールはこの先に設定してある。

実はこの界隈、良い飲み屋さんがあまり見受けられないようなのだ。

が、意外とあるな、こちら二件。

で、修繕中のこちら、恋湊さんは以前利用させてもらったお店。

美味しいお魚を出してくれるコスパの良い居酒屋だ。

目と鼻の先にある初恋屋さんも母体が同じらしく、地元の名店と認められている。

こちらのお店は禁煙のため、近くの煙草屋さんが用意してある灰皿まで移動して吸う必要があることをここに記しておく(煙草を楽しんでいる方がいたため、今回写真は控えたが、そこは四つ前の写真の路地にある)。

喜多屋酒店さん、角打ちをしてらっしゃるお客さんたちが見受けられた。

この界隈、飲み屋さんは少ないながら、名店揃いか。

正面から撮影しなかったが、浅野屋さんはお蕎麦屋さんだ。

お蕎麦屋さんにしては有り難いことに二十二時閉店、飲んだ〆にうってつけだ。

そして、本日のゴールがその向かいにある。

立飲スタンド三楽さん。

この店構えを見よ、くぐってみろよこの縄のれんを。

中にあるコの字カウンターは、全盛期にごった返したであろうお客たちを悠々受け入れたであろうと感じさせるような広さだった。

店内は外見以上に汚いのだが、それが良い。

すでに先客が七名ほどいらっしゃる。

私は指を一本立ててカウンターの角に着いた。

十九時五分、道を最初に間違えたのを差し引いても、景色の良さが歩みをゆっくりさせたらしい。

間を置かないように店内を見渡し、酎ハイ二五◯円とお刺身の二点盛り三五◯円を注文する。

酎ハイとお通しのお新香がすぐ届く。

「六百円です」

このお店も立飲みによくあるCODだ。

立飲みが本当に久しぶりなので驚いたが、以前の感覚を取り戻せた。

二点盛りはマグロとホタテ。

厚みは絶妙で、値頃感を保っている。

黒みがかった赤は久しく見ていないのだが、マルエツさんで売られている物とも思えない。

私としては全肯定メニューである。

とりガーリックペッパー焼き二五◯円、スパサラ一六◯円。

これは驚異的である、他所の半額だ。

レモン酎ハイ二七◯円、これで丁度良い酔いとなって帰路へ。

珍しく昼食が腹持ちしていたのでどこかに寄ろうとは思わなかった。

田端駅は左手にある緩やかな坂道を登ってすぐにある。

次はいよいよ駒込、私が山手線のハブとして最も高い頻度で使用している駅へ。




編集後記

何よりも環状赴くままが神回だった。

つい書き過ぎてしまった、写真が多い記事なので語り過ぎは無用かもしれない。

逆に、他の文章作品にほんの一箇所で良いから光る物を添える努力をしたい、書いたらそれで良いという物でもあるまい。