【六月号】環状赴くまま#010 田端—駒込 編集後記【キ刊TechnoBreakマガジン】

前回の目的地だった田端駅に訪れるのは、人生で三度目となる。

駒込で南北線から山手線に乗り換えて一駅。

これから歩いて駒込駅まで戻るというのだから、少し可笑しい。

そしてその駒込にはバンドの拠点があるから、勝手をよく知っている。

印象に反して駅構内にはスターバックスがあった。

もっと不便なのかと勝手な印象を抱いていたのだが、この後でさらに払拭されることとなる。

今夜の旅の伴を待つ。

参院選を間近に控え、駅前のロータリーには鴬嬢の声が響く。

たしか、候補者の事を三枚舌、四枚舌と褒めちぎる内容だった。

Shunが来た。

「そこの飲み屋良い雰囲気だぞ」

「ここはスタート地点なのよ」

とか言いながら、まだスタートしない。

平日夜に二人で会うのは本当に久しぶりだったのだが、来られないと言っていたShoからさっき連絡があったので、待つ。

といっても、集合時間の十九時半に全員揃った。

コンビニでエビスビールを買って、乾杯。

外環右回りは道がないので、やむなく環内へ進入。

駅前の並びにはガスト、目利きの銀次、家系ラーメン。

立ち飲み屋さんもあるようだ。

Shoが仕切りに感心しているので同意した。

一食一飯に取り上げられていた回転寿司のもり一さんまであるではないか。

駅の真横にあるとは、羨ましいかぎり。

田端文士村記念館、芥川龍之介をはじめとする作家・芸術家たちを展示する施設だ。

ここを右回りにぐるっと囲んだ坂の名が江戸坂。

田端の台地から下谷浅草方面に出る坂だからその名なんだとか。

坂道を登るのは久しぶりという気がする。

陽が落ちているのにとんでもなく暑い日だった。

缶ビールなんかもうぬるくなっている。

前回もそうだったから、これは夏場の教訓である。

吹きすさぶ風がせめてもの救いだ。

坂の上に赤提灯。

写真がぶれたのが口惜しいが、塩煮込と書かれているのに矜持を感じる。

腕自慢の労働者と言った風情の方々が入り口側に陣取っていた。

ここから、一先ず外環を目指して北上する。

評判が良いそうなので、前々にピンを打っておいた浅野屋さん。

芥川龍之介が通っていたというお蕎麦屋さんだ。

今月、芋粥を読み直していたから感慨深い。

鮮魚の三島屋さん、作家とは無縁だろう。

前後に同じ名前のお寿司屋さんと懐石料理屋さんがある。

我々三人にとって、三島といえば静岡県の思い出だ。

さらに北上。

手前に見えるひさしは服屋さん。

スタートして十五分程度でやっと高架上に出た。

前回の見晴らしの良さで、秋刀魚の背骨のような線路をずっと見渡せるこういうのが見どころだと期待したが、野暮な鉄パイプに阻害された。

あんまり悔しかったのか、Shoが狂人の真似を始める。



さっきまで北上した道を左へそれる。

分かりにくいが、路地はそこにある。

それほど大きくは無いが、あって嬉しい公園。

ここではShoが外星人ごっこ。

宇宙船のようなオブジェに這入り、航空宇宙工学科連中はイキイキしている。



前回から、こういう線路沿いを尾根と呼ぶようにした。

なんというか、ここに来るまでの紆余曲折があるからこそ、尾根を歩くのが心地良いという気になれる。

そう言った点で、手軽な登山体験のようだ。

田んぼの端なんて貧乏くじ引いちまったなどと、アウトレイジの真似をしてShoが言う。

先ほどの上り坂の果てにある、ここが下り坂。

登山体験と言ったが、八重洲から始めた頃には無い風情だ。

東京は広すぎる、いや表情が多すぎる。

船橋ノワールを書いていても感じたことだ。

目を引いたので写したが、拡大して撮ったのでイマイチ臨場感に欠けてしまった。

帰ってから調べたが、キリスト教教育に力を入れている男子校のようだ。

もしかすると、平野耕太氏の電脳研がある学校かもしれない。

字楽先生がHellsing最終話に登場したのは感涙ものだった。

坂道の下に踏切。



その先に、カラオケかパチンコ屋の電飾じみた光が輝いている。

かなり場違いな感じがする。

その違和感を、瞬時の想起が解決する。

まさかと思って駆け寄る。

そのまさかだった。

ソープランド、太閤。

五三の桐紋がいやらしい。

太閤という割に価格帯は木下藤吉郎レベルの激安店だ。

風聞では妖怪揃いとかなんとかで、突撃取材する気にはなれない。

お金を貰ったって嫌である。

嗚呼、遠くにパリの灯が見える。

この日のお店は東十条に本店を構える名店、まるばさん。

お刺身もやきとんも、種類豊富で鮮度抜群。

鮮魚に特化したお店もやきとんに特化したお店も、この界隈で知ってはいるが、本当に好きな人を接待するなら迷わずここにする。

今書いていて思ったのだが、あんまり記事にして教えたくないお店だった。

一同気取ってシャリキンで乾杯。

濃すぎて笑った。

それにシャリキンはすぐに溶けてぬるくなる。

だから、ほとんど一気飲みというような格好になる。

鰹と縞鯵。

三人で来たので一切れずつ多くつけて下さった。

さらに、余っていたワラサも。

予約したほどの人気店、混雑の中で心配りがありがたい。

マグロ頬肉の炙り焼きは、食わせる気満々のフレンチの様である。

この後、上レバ、カシラ、チレ。

牛のような豚ハラミの炙り焼きなど。

箸休めに無限ブロッコリー、かぶときゅうりの浅漬け。

どれもこれも安い、美味い、間違いない。

あまり言わないようにしていたが、バンド十周年を迎えて初顔合わせの我々だ。

Shunは平成最後の歌Ωをいたく気に入ってくれているようで、僕は嬉しかった。

ということは、都合付けて来てくれたShoにも感謝しかない。

翌日は週一のバンド定例会である。



編集後記

今月号のヨモツヘグリは、#005にして従来の物語と逸れている。

タイトルや書き出し、その他さまざまな仕掛けがあるのだが…

言ってしまおう、一食一飯改め優しい約束の宜敷準ことエージェントyが、ついに船橋ノワールの世界と本格的な接点を持ったということである。

続報を待たれたし。