【十一月号】総力特集 ギャラクシーエンジェルX【キ刊TechnoBreakマガジン】

決定的にしたのは彼女たちだった。

その仕事は、ロストテクノロジーの回収と言われているが、判然としない。

物語が進行するにつれて、混沌としていくためだ。

ロストテクノロジーという存在が混沌だからだと言えなくもないが、それ以上に脚本家たちがそう仕向けているからだろうと、今の自分にはやっと思える。

それゆえ、彼女たちには紋章機すら不要だという刻がままある。

拳銃が両の手に一挺ずつありさえすれば良いと言うだろう。

否、徒手空拳で十分だ、ついでに髪飾りを鈍器に出来れば上々だとも言うだろう。

神に祈ることさえできれば良いし、着ぐるみを着ていられさえすれば良いとも言うだろう。

何かがズレている。

何も考えていなくとも、料理をしていれば万事解決、そんな事だってあるのだ。

いや、あり得ないのだが、それだからこそ、混沌の中で成立している何かがある。

だから、各回のサブタイトルには必ず料理の名前が付く。


・4-1A(1) 非凡平凡チョコボンボン

 エンジェル隊の面々は平凡な生活を送っている。団地住まいの蘭花は所帯じみた結婚生活で覇気をなくし、何故か管理人をしているミントからゴミ出しに執拗な指摘を受け続けている。フォルテさんはスーパーのレジ打ちに生きる意義を見出せず、店長のヴァニラは意味不明なチラシ作りに明け暮れる。一方でミルフィーユは、スペースコブラのトリップムービーさながらに、持ち前の幸運を遺憾無く発揮する生活を送っていた…。

カレーラーメンの出前を注文するプリンセス

 第一話がディストピア、最終話、投げっぱなしジャーマンというGAの魅力で一杯の名作で第四期は幕を開ける。他にも、コンビーフの缶、カレーラーメンなどニヤリとせずにはいられないクリシェも詰まっている。というか、新OPがもうギャグレを通り越して、関連性極小の脊椎反射オヤジギャグだから、これがGAだ!という製作陣からのメッセージが伝わってくる。

 滅多に見られないくたびれた顔付きの蘭花たちが、一転攻勢となるカタルシスが心地よく、視聴者一同、『あぁ、エンジェル隊が帰ってきた!』と思わずにいられない。フォルテさんが発する「やったか!」が、個人的にグッとくるシーンだ。

・じゃんけん十三奥義

ジャッカルはチョキの5倍の威力があるんだ。パーはもちろんチョキもひとたまりもないぞ!

 アイキャッチは各回、キャラクターごとに奥義を披露。初回が神回だが、毎回神回。十三話で完結を示唆しているのがノスタルジーだ。出鼻にフォルテさんを据えたことで、絶対にこの勢いを下降させないという覚悟が表明されているかのように感じる。

・4-1B(2) 貴女をおもゆ

 烏丸ちとせは病室の窓から、エンジェル隊が仲良く遊ぶ様子を眺め、その姿に憧れと羨望を抱く。病弱な彼女は余命幾許もなく、友達と呼べる存在も無かった。

 新キャラクター烏丸ちとせが、Aパートに紛れ込むカメオ出演を経て初登場。前話を第四期零話とすれば、こちらが一話か。エンジェル隊メンバーの趣味が明言されており、初見の視聴者に向けては親切に思える。のではあるが、第三期のペイロー兄弟が担当した蛇足、僭越、推参に輪をかけたようなちとせの役回りが不憫でならないくらいに、見ていて痛々しい。ゲームシナリオの方でどうなってんだろう、アレ。

「それは可愛いエルボー」

 『笑窪』が可愛いチヨコとレイコが、何故か『エルボー』を繰り出し、それを見ていた際のちとせと、声優である後藤沙緒里さんの演技が全話を通したピークではあるまいか。フォルテさんによるエルボー実技指導もたまらなく良い。

・4-2A(3) ラッキーモンキー汗かきベソかき穴あきー焼き

 時限爆弾解除が今回のミッション、滅多に見られない働いているシーンから始まる。あみだ籤状に見える振り子信管が最下点に到達すると起爆するが、搭載されたAIがエンジェル隊を煽り冷静さを失わせようとする。最後の最後の土壇場に閃いたのは、竹輪を差し込んで時限装置を無効化すること。以来、竹輪だけでどんな困難も切り抜けられるのだが…。

みんないい表情で視聴者も同じく破顔

 数あるエンジェル隊××オチの回。話に無理があるのだがGAだから許せるという、心はトランスバールの皇民という紳士淑女も多いのではなかろうか。オチも一周して笑える。とにかく、GAは感じるものなのだという事を理解できる作品。竹輪フォーエヴァー、赤提灯でおでんが食べたくなる。

・4-2B(4) 友情の切り身お試し価格

 ちとせ回。彼女の友情に対する執着が浮き彫りになる。そして、彼女の病弱を超えた、薄幸キャラを存分に紹介してくれる。

「私の名前は烏丸ちとせ。今日も真実の絆を求めて戦場を彷徨う哀れな女」

これは真実な言葉だが、より残酷な真実はその直後に吐露される。そして流れ出すEDテーマ、Jelly Beansの見方が変わる。私たちは祈る様な気持ちでその絵画を眺める。

 ちとせがエンジェル隊に因縁をつけるシーンの演技が、GAらしさ全開で絶妙。それをあしらうフォルテさんの大人の対応にヒヤヒヤさせられる。

・4-3A(5) 侵略スパイス中佐三昧

 中佐回(?)。倒れた中佐を集中治療室に入れるが、その病院は異星人に侵略されており…ジェットコースターストーリー過ぎてあらすじなんか書けん。

こうなってるミントも良し

 GAでも多数あるトンデモ回のうちの一つ。ミントが主役のようで、ゼリービーンズがらみの破天荒というかやりたい放題が笑える。さらに、フォルテさんが要所々々で活躍しており、それが輪をかけて笑える。ラストなど、エンジェル隊の結束の強さがうかがえるのだが、脚本家が投げているお家芸を見せられた気分だ。

・4-3B(6) お見アイス

 待望のフォルテさん回、しかもギャグ回。フォルテさんはお見合いをさせられるのだが、会場入りの前にひょんなことから蜘蛛の力が身に宿り…。

 お見合い相手の執事が不遜なのだが、きっちりとストーリーを引っ張って行っているので、真の主役は彼とも言える。最序盤の発言に気をとらわれがちだが、私は

「なりませぬ!」「返して頂戴!」こそ、演者の真価が発揮されていて素晴らしいと感じた。残念ながらエンドロールにクレジットされていない。

 『尋常じゃないくらい上手に終わらせている』と評価するのは、私が贔屓しているフォルテさん回だからというだけでは無く、第四期で五本の指に入ると断言しても良いだろう。序破急に振り切られないよう、心せねばならない。

「交際では無く、お友達から」というのは幸せの一つの在り方だろう。

そして、いつもの投げっぱなしエンドだったりするのには目をつぶったままでいて良いと思われる。チェアァ!!

・4-4A(7) わざわざコトコト煮込んだスープ

 「人が珍しく真面目に仕事してるって言うのに!」その名の通り、ことわざ回。ロストテクノロジーにより、口にしたことわざが現実に起きてしまう。エンジェル隊は迫り来る大火をどう切り抜けるのか。

 勉強になって助かる。今回は隊員全員に均等なセリフ割りがなされており、「ピーチクパーチクとまとまりのない人たち」を演出する脚本家の努力が偲ばれる。最後の最後、お家芸が炸裂するのが小気味良い。この感覚が当たり前になってしまうのは、堕落した視聴者である。GAをまったく知らない人が視聴して、合うか合わないかのリトマス試験紙的回。

・4-4B(8) 哀しみ憎しみ凍み豆腐

 こんな回は見たことが無い。フォルテさんの死、その裏側にある哀しみと憎しみの連鎖。涙なしには見られない、犯行動機の供述。傷ついた心を癒すのは、家族の愛情だけ。しかし、その家族すらも偽りだったとすれば…。

 サスペンスミステリーが展開される異色回。こういった役をやらせた時のちとせがノリノリで、珍しく好印象というのが笑える。フォルテさん贔屓の紳士淑女も納得の回であり、影の主人公と言っても過言ではない。あ、ギャグ回ですよ。二言、三言しか言わない刑事役の中田譲治の無駄遣いというか、どういう経緯で出演が決まったのか気になる。

 最序盤で死亡するフォルテさんが、終盤の回想シーンで連呼するキーワードが深々と心に刺さっているファンは多いはずだ(笑)

・4-5A(9) じゃんじゃん炊飯じゃー

 あれ、『鳥丸さん』Aパートから出てるってことあるんですね。そばにある物を吸い込んでご飯にしてしまう炊飯器型のロストテクノロジー。そのご飯を食べると、吸い込んだ物の能力を得られると言う事を知ったちとせは、隊員たちの役に立とうと甲斐々々しく奮戦するのだが…。

 奉仕と利用と欺瞞の関係は、ちとせというキャラクターによく似合う。彼女が関わるとたいていロクな事にならないのだが、こんな風に活躍の機会が与えられている分、微笑ましい。今回はかなり体当たりな役回りを任されてしまっているので、彼女の強さを見守ろう。演じている後藤沙緒里さんは現在フリーで活動しているが、2022年は話題作のチェンソーマンに出演した。ゴトゥーザ様こと後藤邑子に比較され、後藤(弱)さんと呼ばれる彼女の強さを見守ろう。

・4-5B(10) ラブ米

 GA屈指の神回降臨。エンジェル隊は捜査のため、とある学園に潜入する。そこで彼女たちを待ち受ける『恋の予感』…。

主題歌「もっと!エンジェル」

 炊飯じゃーから米へのバトンパス、ABの前後が逆だったならばこれほどまでの盛り上がりはなかっただろう。転校生が曲がり角でぶつかるというコッテコテのアバンタイトルから特殊OPが始まり、これこそがまごう事なき神回告知。任務を忘れて学園生活に馴染み過ぎたフォルテさんたちの様子に卒倒する中佐を、「先生!」と呼んでしまっているミルフィーユもまた馴染み過ぎている。

 「青春は一度きり」というセリフが三十路を過ぎたこの身には堪えるのだが、我々は『この胸の痛み』を奮起に転じねばならないだろう。Blu-ray BOX上巻のピークである。小野坂昌也のキャスティングが、当時らしいといえば当時らしい。使っているのがガラケーというのも。

・4-6A(11) 思い出ぎゅうぎゅう鍋

 隊員一同で具材を持ち寄ったすき焼きパーティ。しかし、突如として具材たちが凶暴化して彼女たちに襲い掛かる。揃った食材は、怨念渦巻く曰く付きのものばかりだったのだ…。

 エンジェル隊がすき焼き積立貯金をしていたというのを見習いたい。遊びが転じて破茶滅茶が展開されるいつものパターンと、ミルフィーユのデウス・エクス・マキナ的混乱収拾が、安心して見られるまともな回。まともな回ほど平凡に見える。

「ネギ好き」三層構造のネギが飛び出すのがニクい

 のだが『クイズまたおめ〜かよ』の時間が笑える。玄人はこれくらいで大体わかるが、玄人は試聴済みだ。とりあえずBOX買って見進めて、この域に至って欲しい。ヴァニラさんにネギを持たせたスタッフの分かってる感、フォルテさんにバズーカを持たせたスタッフの分かってる感も良い。

・4-6B(12) その時歴史は、プリンセスメロン

 時は宇宙暦十万とんで七九四年。銀河系を巻き込んだ星間戦争の最中、ウォルコット三十七世によるウォルコット帝国が誕生する。皇太子妃の座を巡り、五人の候補が覇権争いを繰り広げる。

 小林秀雄はよく「歴史と文学」の問題を議論するのだが、この回を観たおかげで歴史が好きになった、と言う事は私には当てはまらない。GA好きを歴史好きに転身させられるような回なら評価も高いのだろうが、そんなことはなく意味不明な回。いや、GAに意味はないのだと言う事を改めて思い知らされる回である。

もはや神々しさすら感じられる

 モビルスーツの登場から超ヤバい光線まで、派手なのが良い。あの蘭花の一枚絵は、ファンならずとも爽快であろう。あと、ペイロー兄弟たちの使い所が、もはやあの程度しかないから目障りにならざるを得ないと言う悪循環を笑いどころに据えたい。

・4-7A(13) 成りアガリクスダケ

 蘭花の鶴の一声で、バンドコンテストへの応募が決定する。しかし、バンドの音楽に何かが決定的に足りない。そこへ突如現れた新フォルテ。彼女たちは成り上がりへの道を突き進む。

 新フォルテ(呼び捨て)がとにかく気に食わない。蘭花回なのは良いが、フォルテさん不遇回なので個人的には第四期で一番嫌いだ。作画は良いのに新フォルテがクソ面白くない。ただ、収録現場の楽しそうな光景は目に浮かぶ、そんな回。

・4-7B(14) お守りそば

 若かりし日には白き超新星の狼と呼ばれた男、ウォルコット・O・ヒューイ回。エンジェル隊を見守る彼の、平凡だけれどちょっと切ない一日の物語。

この後、挿入歌「黄昏Day Dream」中佐が歌います

 とは書いたものの、エンジェル隊の存在が異常なので彼が平凡に見えるだけである。彼の苦労はシリーズを通して随所に見られていたのだが、それを当たり前のものと看過させずに焦点を当てたことが素晴らしい。滅多に描かれない中佐の想いや、日々の動きが見られて貴重だ。オチのパンチのなさ加減も爽やかである。


以上が、ギャラクシーエンジェルX Blu-ray Box上巻の大体だ。

安心してほしい、GAには始まりもなければ終わりもない。

Blu-ray Discの容量があるのみだ。

Discのチャプターメニューから

ただ、筆者は漫画、ゲーム及び第一期を見ようという気は無い。