世にも奇妙な糞語

Shunは便秘に悩まされていた。

遠い昔、祖母に教わった便秘解消のまじない、う〜んでるでるうんぱっぱを微睡みの中で思い出しながらその日は眠りに落ちた。

夢の中で8人の小人に囲まれたShun。

「どうして8人?」

夢さながらの疑問である。

「8は縁起のいい数字だからだよ。」

8人にはそれぞれ名前が付いており、歳もバラバラだったが、その顔は同一人物のものだった。TechnoBreak Junのそれである。

「Junクソ何してはるんすか?」

「まぁ、固い事は宿便だけにして。」

話では元々11人兄弟だったが、3番目のお兄さんが病死してから、十男と十一男を長男が間引いて今の人数になったらしい。彼らはクソの妖精と名乗った。

ウンコー・ベルである。

「夢からの目覚めと便秘の解消は同じさ。」小人が言う「この夢から覚めたいと思うだろ?便秘が治ればいいと思うだろ?だけど、それは便だって同じ事。早く外に出たいって思ってるんだから、まあその事を理解した上で待っててやんなよ。この夢の世界でも、アンタは異物だから、俺たち小人はアンタに早く出て行って欲しいって思ってるんだ。」

その言葉で目が覚めたShun。

ハッと思い当たる。

夢からの目覚めと便秘の解消は同じ。

しかし、漏らしている事はなかった。

嫌な寝汗をかいている。

シャワーを浴びるために部屋から出ようとすると扉が開かない。

鍵穴からクソの妖精が列になって出て来て、Shunの腕を渡って身体にまとわりついてくる。

う〜んでるでるうんぱっぱを歌いながら。

得意のギターを弾いてくれるようにせがみながら。

慌てながらもShunは冷静だった、小人が居るならこれは夢だ。

「夢からの目覚めと便秘の解消は同じさ。」クソの小人たちがささやく。

その中で一際色の白い小人が「今まで僕たちを褒めてくれてありがとう。知ってるよクソってFuckin’ goodの意味で使うって。」

Fuckin’ goodの歌を口ずさみながら、小人達は踊り出す。これは夢だ。そう思いながら、ギターでFuckin’ goodの歌を伴奏するShun。でも、何かが足りない、思い出せない。

「それが何か分かるなぁ」「分かる分かる」口々に囁きながら小人達は踊ります。それで彼らはFuck enoughなのでした。

それからShunは目覚めても目覚めても夢の中です。彼は一体いつ、本当の目覚めを迎えるのでしょうか。それが夜明けなのか、まだ深夜なのか、それとも目覚ましに気付かなかった翌日昼過ぎなのか、誰にも分かりません。

ただ一つ言えることは、この悪夢から本当に目覚めた時が、彼の人生で最大の快感と後悔を実感する瞬間だということです。

寝グソ。

起きたらそこに置かれていたというわけではなく、起きたその刹那にEjectされるオーディオ機器。パチリと目が開くと、カチリと仕組みが作動し、キチリとそれを実現させる。追いかける目覚めが先か、逃げる脱糞が先か。

夢の中での5度目の目覚めの後、Shunは考えました。

『まだ夢の中でいるうちに、何か対策が出来るはずだ。』

小人たちが歌います。

「そうそう、例えば夢でオムツ。」

「そうそう、例えば糞でオムレツ。」

「そうそう、例えば受け入れる。」

「起きたら、寝グソを受け入れる。」

「そうそう、例えば諦める。」

「起きても、寝グソは垂れてない。」

「それから、最後はクソになる。」

「ほらほら、お前がクソになる。」

子守唄に包まれて、微睡みの中でShunは思いました。

『そうか、俺は生活を諦めたんだ。外には出たくない。ならいっそ…。』

最後の夢は真っ暗でした。

遠くに明かりが射しています。

そちらへ向かえば出て行けそうです。

『ここは、直腸だ。俺、ウンコになってるんだ。』

光射す出口へ背を向けると、Shunは奥へ奥へと進みました。

流れに逆らうこと、それを遡行と言います。

社会人がその常識として行なっている社会生活。全感覚を遮断して、無反省にそのシステムに順応する事を、Shunは良しとしなかったのです。

しかし。

世に止まない雨はなく、明けない夜もありません。

世に覚めない夢はなく、転がらない糞もありません。

口からウンコを漏らしている、彼の死体が発見されたのは、それからすぐの事でした。

 

ストーリーテラーSho

「この奇妙な事件の報道は過熱したでしょうが、真相は誰にも取材できないでしょう。せめて皆さんは覚えておいてください。ところで、彼は妖精たちによって救われたのでしょうか?選ばれた答えは最も残酷なものでしたが、はたして彼の死に顔は満足していたか…?この週刊誌に記事が組まれてます、ちょっと拝見。」