「最強のおかずは何か?」
大学の研究室で二ヶ上の伊藤さんから問われた。
駆け出し美味しんモンスターだった俺が弾き出す。
鯖味噌か、否。鮪が絶滅した未来ならばあるいは。
味噌汁か、否。シンプルイズ思考停止極致。
唐揚げか、否。May the force beer with you.
豚の生姜焼きか、否。否である。
俺はそこで結論を出し、こう言った。
「自分は回鍋肉です。」
伊藤さんは二マっと笑って、同意してくれたものだ。
「都内 回鍋肉」で検索すると、必ずと言って良いほど上位にヒットする
飯田橋 えぞ松
乗り換えが飯田橋であるため、個人的にも週に一度は利用している店舗だ。
動線の都合上、本店ではなく神楽坂店を利用させていただいている。
あれから十年、今の俺はここで回鍋肉を注文しない。
一つ目の理由は生涯分の回鍋肉を食べてしまったかもしれない事。
二つ目の理由はサービスの問題で、こちらの方が重要だ。
ここでは、カウンター上のカップにミキサーにかけたニンニクが置かれている。
この禍々しさ、それだけで毎週訪れる理由たり得るのだ。
これをドバッと回鍋肉にGOーGarlic &Oilーする。
しかし、それを食うと口の中が痛くて痛くて、涙が出るの。
健康への悪影響を確信するレベルで痛いの。
これは続けられないよ・・・。
妥協案として、セットで付くスープにニンニクを入れる手もある。
しかしながら、まだ自分の欲する量をスープの容量が受け入れてくれない。
もう、無理なのか・・・。
危機を好機に反転させる光の橋に魔が差した。
なんだ、この感覚は。
なんだ、この世間の潮流は。
誰かが、いや
不特定多数の誰かたちが、
俺の背中を押している。
麻婆丼だ。
ラーメンでも入れるような大ぶりの丼だ。
これなら餡の中に大量のニンニクを忍ばせたとしても、濃度は限りなくゼロ。
きっかけは回鍋肉有名店の評判だが、今や自分にとっての生命維持装置。
そして、その役割を十全に果たすための最適解がこの麻婆丼。
こうなってくると何ともニンニクに合う味わいじゃないか。
決めた、花椒は他所で摂ろう。
東京都新宿区神楽坂1丁目14
ここから、俺の本当の麻婆豆腐を探す旅が始まった。
続