今、俺は命を狙われている。
半年前、社員食堂を切り盛りしていたチーフが斃れた。
脳溢血、ICUに一週間近く入った後に死んだそうだ。
チーフは十年前に俺が入社した頃からチーフと呼ばれていた。
きっとさらにその十年以上も前から呼ばれていたのだろう。
S&Wチーフスペシャルが得物だったからに違いない、俺はそう睨んでいる。
チーフは俺たち社員のために大盛り無料にしてくれていた恩人だった。
ところがどうだ。
彼の死後四十九日も待たないうちから、献立の幅は減る、食事の味は落ちる(顕著なのが鯖の味噌煮だ、大好物だったのに今は見るのも嫌だ)、大盛りは五十円増しになる。
今まで形だけの存在だった食券機は、全社員が利用することを義務付けられた。
売り場からの往復が面倒だから食券をまとめ買いしておけば、ご丁寧に俺でも読めるくらいの文字で『食券の利用は当日限りです』なんて張り紙までされた。
お陰で俺は毎度毎度「日替わり定食」「大盛り」「単品唐揚げ」「単品唐揚げ」あの忌々しいボタンを四回も、いつもより五十円も多く払って押す羽目になっちまった。
以前は一個三十円だった唐揚げは、二度の値上げを挟んで今の値段になった。
それはいい。
クソッタレな社会がもっともっとクソッタレになっただけだ、俺でも知ってる。
チーフだって苦渋の決断だったに違いない。
ただ、昔は百円で三個も食えて釣りが来た唐揚げだって、今じゃたった二つ。
ウチの台所事情はそういう事かって疑いたくなるのも無理ないだろ?
制度変更の頃に経理部長が、わざわざ食堂で俺に近寄って
「もう大盛りタダじゃ無くなっちゃいますね。」
なんて言いやがるもんだから、どう見たってこりゃ俺に対する兵糧攻めじゃないですかなんて鎌かけてやった。
奴さん、ニタニタ笑うだけで何も言わなかったがな。
永遠のものなんてない。
俺の食欲だって同じだ。
だから五十過ぎには連中と同じくご飯の量を半分にしてもらうに決まってる。
なんで今その前借ができない?なんで半ライスが五十円引きになっていない?
五十円出した大盛りは前に比べてこれ見よがしに盛られるようになったもんだから、おかずが足りなくて二つも余計に唐揚げを買う羽目になってる。
アイツらは一体、俺からいくら搾取する気なんだ。
呼び出しの電話が鳴ってる、もう行かなきゃならん。
これを読んでるあんたが、ウチの“カンパニー”の人間じゃない事を祈るよ。