「貫いてみせなさいよ、アンタの煌めきで」
幾千万のポジションゼロが、煌めきの奔流となって嵐の滝の如く吹き荒れる。
東京タワーという舞台を無用のものとした彼女らの、一体どちらにアタシ再生産が起きたというのか。
トマトは潰れたが、失墜のままでいるのは誰か。
違う、開演したのだ、今。
スタァライトは、必ず別れる悲劇。
いや。
次々と告げられる訣別。
天堂、西條、実力ある者の順に咲く。
露崎は自信に満ちている。
花柳は世界を見据える。
石動は地べたに咲かず、翔ばんとす。
大場は台場へ、大舞台へ。
星見、日本一の英文科で星を掴むか。
愛城だけが、別らない。
神楽、不在の存在感。
「友よ」
ワイルドスクリーンバロックが 開幕する。
皆殺しのレビューは逆光を背にしてこちらを見詰めている。
純白の虎こそ、狩り立てられる獲物に相応しいのだから。
あなた、分かりますか、ルールが分かりますか?
誰も分からないままに応戦するしか無い。
一対多の死線の果てに、狩り立てられているのはどちらなのか。
ワイルドスクリーンバロック、自然の摂理なのね。
間奏が極大級の盛り上がりを見せる。
天堂だけが気付く、これがオーディションでは無いということを。
すなわち、私たちはもう舞台の上だと。
横たわり、血を流す少女達の中に、きっと私たちも横たわっていた。
舞台装置だと檄を飛ばされても、私たちは狼狽えていた。
ここから先、まばたきも赦されないであろう事に。
大場ななは、小学一年生でもア・プリオリに知っている簡単なことを、たった五分のレビューで明らかに示した。
ワイルドスクリーンバロック、弱肉強食という名を借りた絶対運命黙示録を。
「囚われ変わらない者は、やがて朽ち果て死んでゆく。」
聖翔音楽学園 第一〇一回公演の決起集会で配られた未完成の台本。
今は、今だけは、スタァライト九九組に沈黙していて欲しいと願った。
弦楽と鍵盤の織りなす旋律が、脚本家と演出家の心意気を誰もが受け止めていることを聴かせる。
舞台に関わる全生徒たちが、既に舞台の上に立っているからだ。
「生まれ変われ、古い肉体を壊し。新しい血を引き込んで。今いる場所を、明日にも越えて。辿り着いた頂きに、背を向けて。」
眩しすぎることも無いのに、だからこそ余りにも美しすぎて、全文を引用した。
ここで曲が転調する。
アタシ再生産が、一人一人に起きる。
彼女たちの覚醒を、特等席で見ているのは私たちだ。
「さぁ、張った張った!」
この後、わがままハイウェイが続くのは言うまでもない。
まるで流れ星のような二人だねと、眩しくて、眩しくて。
劇場にいる私たちは、まるで原始人のように言葉を失った。
仁義なき戦いのジングルのオマージュであることに気付くまで三ヶ月を要するほどに。
少女たちの誰もが発心と決心をする中で、ただ一人だけ、相続心の芽生えた者がいた。
九十九期生、露崎まひる。
夢咲く舞台へ輝く少女。
彼女の選手宣誓は見かけに過ぎぬ。
たった一人だけ選ばれた者だけが授かる金メダルを得るに相応しいかどうか、神楽ひかるのライバル。
いや、断罪の審判者だ。
その強さは、怖さを克服したが故。
怖さから、目を逸らさない強さ。
だから、執着しない、舞台で生きていく決意を、神楽ひかりに相続し、彼女もまた次のレースへ、別の舞台へ。
そうだ、スタァライトは、必ず別れる悲劇。
いや。
確信する、彼女の次が輝くことを。
二度目の鑑賞は、私に狩りのレヴューの意外な良さを気付かせた。
帽子の中の果実は潰れ、虎は檻の中に捕えられ、ななの咆哮が一擲する。
弓矢は狩猟のためにある、純那にとってそれは当たり前のことだ。
そして、作家の言葉が彼女の力だ。
「さあその牙抜きましょう」
あまりにも美しい歌声が伸びやかに響く。
言葉が彼女の背中を押してくれる、言葉は彼女の力なのだ。
だが、借り物の言葉は届かない。
言葉を託された矢は、大場の刃で両断される。
眩しいのは星ではないのだ。
星を掴もうとする姿こそが眩しい。
しかし、それももう見られないらしい。
「君は眩しかったよ、星見純那」
ゲーテ、ニーチェ、ヘッセとは誰か。
それは他人だ。
他人の言葉ではダメなのだ。
「殺してみせろよ、大場なな!!」
大場ななは取り乱し、見失う。
お前は何者だ、と。
それはお前自身か、と。
彼女は応える。
「伊達に何度も見上げていないわ」
星見純菜は、主役を演じた。
大場ななは、舞台に徹した。
それだけの違いでしかない。
そうとも、180°逆を向いて歩き続ければ、地球の裏側でいつか必ずまた会える。
断ち切られた写真の切り傷は、もう一度癒着する。
二人は、同じポジションゼロを歩いているから。
作中で最も爽やかな涙と、天堂真矢ぐらいにはなれる予感を確信させる決意の眼差し。
この後、天堂真矢と西條クロディーヌが頂上決戦を繰り広げる。
私は彼女たち二人を良く知らない。
まるでそれは、彼女たちだけが、お互いを良く知っているかのようだ。
光、よく影を知る。
影だけが、その光に応える。
そして、神楽ひかりがその舞台へたどり着く。
愛城華恋の待つ、東京タワー。
其処が一体何を暗示している場所なのか、知らない。
知る必要もあるまい。
彼女たちがいる、その場所がポジション・ゼロなのだ。
アタシは、アタシが立っている所にいる、それ以外のどこでもない。
そう言っているのだ。
スタァライトは、必ず別れる悲劇。
いや。
さっきまでの死んだ肉体に別れを告げて、彼女たちの誰もがアタシ再生産を迎える。
それを悲劇などと。
エンドロールが否定する。
眩しいからきっと見えないんだ、と。
地球で一番キラめいた少女の上位八人だ。
ポジション・ゼロって気分だぜ。
換言するならば、あなたの目を灼くのは光だということ。