【2024冬号】担々探訪 #002 大塚鳴龍【キ刊TechnoBreakマガジン】

 謹賀新年。僕は迷信深い性質だから、験担ぎに相応しいと思われるお店へ向かった。某コンビニでカップ麺を買い求めるときは、五割以上の頻度で手にしている商品を監修しているお店だ。大塚、鳴龍さん。辰年を幕開ける担々探訪にうってつけではあるまいか。大塚は、世話になった飲んだくれ化学教師が好きそうな居酒屋も駅前にある、懐の広い街のようだ。

 十二時二十二分着、行列の二十人目だ。呆然として立ち尽くした。賀正という字が頭の中で音を立てて崩れていく、合掌。すぐさま店員さんが駆けつけ、入店まで一時間半はかかると警告をしてくれた。探訪の日程は限られている、引き下がれなかった。諾。このお店は行列の新規が着く度に確認してくれている。それは凄い事だと思うし、一流店の矜持を感じる。その事には感謝したい。

「ちなみに言っておくが」自称半知半能の龍神、夏見ニコル女史「主は可能なら十一時半から並ぼうとしていたようだが、ここの開店は十一時だから、いずれにせよ並ばざるを得なかっただろうな」暴君が嘲笑う。

 そう、その通りだ。忙しすぎて視野が狭くなっていた。ランチ営業は十一時半から、等と自分でも凝り固まった観念に頭が一杯になっていた。

「半知半能ならこの行列をどうにかしてくれ」

「這入りたい店が行列していたら待たねばならぬのは摂理では無いか。我にはどうにもならぬ。半知半能だから待ちぼうけは苦にならんぞ、悠久の刻を生きているでな」

 結局一時間待った。先に並んでいたお客が

「ここは誰が食べても美味しい」

と豪語していた。そうかい、そりゃ楽しみだよ。どうせ並ぶなら開店十分前が良いと思われる。洒落たコートじゃ無くダウンにしておいたのがせめてもの救いだった。こんな寒空では体調を崩してしまうだろうから。

 入店、全面液晶の食券機に注文を打ち込む。寒いのに瓶ビール、よだれ鶏、水餃子、担々麺、替え玉券を二枚、トッピングのチャーシュー、パクチー、チャーシューご飯。このお店は酸辣湯麺の二枚看板だそうだ。六人掛けのカウンターの末席へ。テーブル席は二人掛けと四人掛けが一つずつ。

 創作麺工房を名乗るだけあり、仕事が丁寧に感じられる。瓶ビールと共に、まずよだれ鶏が提供された。白胡麻がたっぷりかけられている。しっとりとしていながら脂気がある好みの味だ。ビールにもご飯にも合う。鶏料理が選択肢に入れられているのは凄いと思った。麺類だけ食わせて出ていけ、としない姿勢が伺える。

 水餃子は三個入りで三五◯円。十分な量の刻み葱が添えられている。食感はつるんとしていて、いくら食べても良さそうだ。五個入り七◯◯円とかにしていないのは素晴らしい。

「おい」ニコル女史がすぐさま口を挟んだ「今、木場の某何々軒の餃子と比較しようとした挙句、先方のラーメンをこき下ろそうとしたな」

「愛のある弄りだとでも思ってくれよ。それにあのお店は、此処と違ってワインという選択肢があるだろ」

 で、本命の担々麺がLaunch。カップ麺と同様、胡麻成分は一箇所に掛けられている。麺は細麺、僕が一番好きな径。こりゃ替え玉しない手は無いね。さっそく手繰って啜ると、頭の中一杯に疑問符が押し寄せる。その理由を知りたくて、もう一啜り。

『酸っぱい醤油ラーメンだコレ!』

 答えが解ってニンマリしてしまった。カップで食べていたときは、自分で掛けたあとがけ芝麻醬調味料の所からかっ食らってたもんな。ラーメンのベースは醤油、味噌、塩そんなもんだ。此処のお店のベースは酸っぱい醤油ラーメン、答えが出た。だからどうって事でも無いのだけれど。

 そんな事を思いながら啜っていると、丁度最後の一口に求めていたインペリアル・トレジャーの味が現れた。つまり、胡麻ソースがどっぷりと掛かっていた所を掬い上げて食べた瞬間だったわけだ。咽ぶほどに濃厚な一箸だった。もう良い、替え玉でその味を享受する事は出来るだろう。やっと出会えた気がする、インペリアル・トレジャーのあの味に。しかし、不思議です。見方を変えれば酸っぱい醤油ラーメンなんですからね。

 並びの時間以外は、おおむね満足して帰ってきた僕だ。無論、担々麺としてはこれもまた違う。それでも、良かった、とても。で、此処から先は蛇足だが、終わりへと収束させよう。実は、この、あんまり大きな声では言えないが、鳴龍さんの味を半全ながら再現出来るかと思ってやってみたのだ。もしも、真に受ける方がいらっしゃいますれば、参考までのお聞き流しに。先ずは、醤油ラーメンを用意する。これはポロ一こと、サッポロ一番醤油味。普通に作って、出来たら適量のタバスコを入れる、コレだけで酸辣湯麺の再現くらいは出来る。で、鳴龍要素としてだ、金胡麻ドレッシングをドッと垂らす。家で格安で、つまり現地で千円かかるところを、三百円以下で再現するにはこれ以上はあるまい。三十点。

 僕はまた来月から、あの味を求めて彷徨うことになるだろう。結構な事である。

 それではみなさんが、良い年になりますように。