誰も出勤しない休日のオフィスに唾を吐き捨てる代わりに、銚子のビジネスホテルで缶詰になって仕事をしてきた。
晩にはお刺身、焼き魚、煮物、揚げ物が出され、朝は焼き魚と卵とお味噌汁。
昼食時だけ外を出歩くのも格好の気晴らしになる。
普段、往復の通勤時間に充てる三時間はベッドで寝ていれば良い。
キッチンが無いから作りながら飲む事ができないのがまた良い。
その代わりに飲みながら仕事が出来る、これは家ではなかなか難しい。
なので毎晩したたか飲んだ。
木曜の晩から日曜の朝まで、そんな生活にとっぷりと浸り、あともう一日泊まりたいという気持ちを堪えて帰路に着く。
千葉駅まで二時間かかる電車の中でも仕事をしながら、では昼食を何にしようか考えていると、いまひとつ仕事が手につかぬ。
挙句、前日は真夜中まで映画を見ながらハイボールで、ほとんどひと瓶空けてしまった。
喉の渇き、胃のむかつき、嫌な汗、二日酔いの喜びが満身に結晶している。
だからカレーが食べたい、無性に。
酒飲みなら誰にでもある様なこの経験が、カレーは飲み物という至言を生んだのではあるまいか。
勘違い行楽気分への絶縁状、ハロー日常、バイバイ旅情。
ラーメンなら毎日のように食べるくせに、カレーが食べたくなるのは思い出したようなときくらいだ。
誠意を欠いた付き合い、反省せねばなるまい。
でも、ラーメン屋さんはコンビニくらいあるのに、カレー屋さんはお花屋さんくらいしかないじゃないか。
この男、どうやら反省していない。
誠意を欠いていたのは付き合い方ではなく、この男の性根の問題だったらしい。
真っ直ぐに歪んだ心を、しかしそう簡単には変えられない。
半ベソをかきながらCoCo壱番屋さんへ這入った。
手近なところでリキを入れるためにあいがけというのはもちろん効果的だ。
大学の目の前にあった三品食堂という所は、牛めし、カレーライス、カツライスの組み合わせでやっていて、午後の講義を乗り切るために注文する赤玉ミックスは学生当時一番の贅沢だった。
だが、今までの漫文に書いた通り牛丼屋さんでは、𠮷野家さんは牛、松屋さんはカルビ焼肉、すき家さんは混ぜのっけ朝食、カレーが割り込む余地は基本的にない。
おそらく、これら三店舗の中で、一番頻繁に行くお店であればカレーを注文することもあるだろう。
それならば、CoCo壱番屋さんは、一体何が違うのだろうか。
CoCo壱番屋、その本質は一体何か。
答えはシンプル、カレー屋さんなのである。
だが、果たしてそれだけだろうか。
メニューにはカレールーが五種類から選べる(CoCo壱番屋さんはこれをソースと表記している)。
ポークが基本で、ビーフは割増料金だ。
こういった時は、松か竹か、迷わず高い方にするのだが、ポークカレーが好きなのでここは身を委ねる。
ライスの量は、表記を勝手に並盛り中盛り大盛り、それ以降は一括して特盛りと捉えて大盛りにする。
それに呼応してお玉二杯分のルーを追加する。
辛さについては長くなるので、調整なしが良かろうとだけ記しておく。
これで未だ千円超えていないのは小学生でも計算できることだ。
観えて来たのはイイ感じ未来予想図、私の心の眼に映る。
しかし、CoCo壱番屋さんの本質はカレーの調整に小回りが効くということでは無いと観る。
心の眼で観ているイイ感じ未来予想図が鮮明になる。
そうだ、これは半分だけ真っ白いキャンバスなのだ。
今こそ私は、カレー色の大海原を目の前に見据え、しかと踏みしめるこの白い砂浜に、素敵な物だけたくさん集めよう。
CoCo壱番屋さんの本質は、シンプルにカレー屋さんであるということ。
なればこそ、そのカレーを半無限の自由度で創造出来ることもまた本質。
問われている、私のデザイン思考が。
CoCoで会ったが百年目、迷わず冬季限定の牡蠣フライだ。
これが怒りの牡蠣Fury。
Haben Sie ein Zimmer frei?
私は迷わない、悩むこともない。
考えているからだ。
もしも間違えたらその非を認め、また考えれば良い。
だが待て、私はトッピングのメニューを見てもいない。
牡蠣フライは良いとして、考えずに決めていたではないか。
もしも間違えたらその非を認め、また考えれば良い。
そうだ、問われているのは、私のデザイン思考。
しかしどのページを見ても、トッピングのコーナーが無い。
というか、土台みな同じカレーなのだが、上に載せるものだけアレコレ変えるだけで何ページにもなるというのは圧倒的な自由度の表れだ。
このメニュー、しかと目を通して考えねばなるまい。
トッピングのコーナーは大食い元お笑い芸人(灯台下暗しに掛けたつもりだが、石塚英彦さんは現役のお笑い芸人さんである)、ルーの種類やライスの量を選ぶページ下部にそっと載っていた。
悩んでいてもはじまらぬ、ここは食べ歩きの直感を信じて選んでしまおう。
有れば注文の牡蠣フライ、意外と安値のビーフカツ、ついつい追加でクリームコロッケ、牡蠣フライ用にタルタルソース、カレーの恋人半熟タマゴ、とっても嬉しいオクラ山芋、チーズで美味しいおまじない。
そう、こと食事に関しては、食べながら考えたって良い。
運ばれてきた一皿は半分白いキャンバスから、だいたい茶色い絵画になっていた。
何処だチーズは、ルーに溶けてしまって確認が難しい。
これは美味しい海洋汚染、清濁併せ呑む時だ。
これは後で知った事なのだが、というより今書きながらメニューを見ていて気付いた事なのだが、ライスを増量するとその分のルーも増加するという。
だから、運ばれてきた一皿を見て、チャレンジメニューのように思われた方々も無理からぬことである。
しかし、私の目の前にあるのは、私自身には他と比較する仕様が無いのでそのまま美味しく頂くことができた。
今更、カレーの味をどうこうと論ずるのは無意味であろう、カレーは美味しい。
ともかく、デザイン思考はresignすることに決める。