咖喱の後には珈琲を飲む。
この二つをセットにしているイメージは何処で植え付けられただろうか。
新宿か新橋か、まあそんな所だろう。
前回、CoCo壱番屋さんで咖喱を頂いた。
無論日を改めてではあるが、珈琲を飲みに行こうと決めた。
向かうのは珈琲所コメダ珈琲店さんだ。
よく見かける記事には、その質量感に圧倒されて、敗北感と共に退店という一連のクリシェが出来ている。
変態&異常の二重属性を食欲に擁する私には、何、恐るるに足りぬ。
だが念のため、朝食はコンビニおにぎり二つにしておいた。
何も食べないままでは、日課のランニングに障ると判断したためだ。
二日前の土曜、会合の後オフィスの寝袋で寝た。
職場泊は二年ぶりだろうか。
間の悪いことに、明くる日曜が工事のため、守衛さんが来てしまった。
騒ぎとなったらしく、朝八時ごろ血相を変えた部長がオフィスに来た。
寝巻きがわりの運動着姿で仕事をしていた私は事情を説明し、小言を貰った。
凹んでいても仕方がないので、日曜はやることを済ませて夕方に退社。
親友のKが珍しくLINEを寄越し
「御茶ノ水の蕎麦屋が閉店しててショック」
と言っているので、合流して慰める。
金曜から三日連続で飲んでいる事になる。
聞けば、閉店したのは小諸そばさんだという、私もショックだった。
そして、今朝は月曜、いつも通り朝一番に出社して部長に頭を下げた。
お咎めなし、円満解決し、ニコニコで今ランニングに出かけたところである。
身体が軽い、心が清々しい、そろそろお腹が鳴りそうだ。
そんな私を察してか、部長がその日の三時過ぎに丸亀製麺さんのうどん弁当、秋刀魚の天ぷらが載っているやつを差し入れてくれた。
昼食に摂るなら白いご飯も欲しくなるが、おやつには丁度良かった。
さて、そんなおやつから遡る事、五時間前。
私は珈琲所コメダ珈琲店さんに居た。
出された水はすぐ一息に飲んでしまった。
ランニングしてシャワーした後だったからだ。
早すぎる昼食、何にしようかと固唾を飲んでいる。
入店までの困難もあった。
朝のすき家さん、日高屋さん、プロントさん、松屋さん、富士そばさん。
ランニング後の私はビールが飲みたくなっていたのだ。
さらに、コメダさんのすぐそばには、孤独のグルメにも出ていた有名な飲み屋さんが開いている。
何のためにランニングをしたのだと自分に言い聞かせて、今、コメダさんのメニューと対峙している。
しかし、一択だ、やはり。
ヒレカツ、金貨が五枚載っているかのようではないか。
迷宮の男さながらである。
さっきから白いご飯が食べたくてしょうがない。
丸パン二つでは心許ない思いがする。
ここで欲をかくから失敗するのはもう見飽きているのだ。
つまり、サンドイッチに手を出せばバースト、ミックスサンドをぐっと堪える。
これなら行けるだろうと探したのは、エッグバーガー。
メニューの上からシールが貼られている。
店舗での取り扱いなし。
ロスト!!
ご飯は無い、ヒレカツ以外にも食べたい、しかし食べきれませんでしたというオチは避けねばならない。
ユリイカ、これだ。
コメダグラタン。
珈琲は、たっぷりアイス。
押しボタンで店員さんを呼ぶ。
それぞれ注文し、お水もお願いする。
シロノワール食べたいけど大きいんだよな、小さいサイズだと取材に来た意味が無くなるしな、なんて考えながら。
「コーヒーにはモーニングが付きますがいかがしますか?」
「はっ、何ですか?」私はちょっと身構えた。
「こちらのページのモーニングがセットで付きます」
「えっ、た、タダでですか?」私は身を乗り出した。
「はい」まだぎこちないアルバイト店員さんの笑顔が眩しい。
「わっ、やった」私は小躍りしてそのページを睨んだ。
コメダ珈琲店さんを利用するのは、バンドの打ち合わせ時ばかりだ。
モーニングの存在は全くの盲点だった。
というか昼食を摂りに来たのに、モーニング?
良いのだ、朝十一時までは珈琲にセットで付くのだから。
尾張魂の徳高さに触れた想いがする。
厚切りの食パンが縦半分に割かれたトースト。
Aセットは定番ゆで卵、Bセットは手作りたまごペースト、Cセットは名古屋名物おぐらあん。
シロノワールは注文しないが、Cセットにすればデザートの代わりになる。
そちらをお願いし、トーストにはジャムを塗って頂いた。
たかだか、トースト一切れでバーストなどありえぬ、渡りに船だ、皿に毒だ。
他には、バター、練乳ソースなどがあるという、至れり尽くせりか。
Aセットが気になったので、ゆで卵を追加注文した。
さて、しばらくすると、続々と料理が運ばれて来た。
いよいよ最後に、グラタンとセットのバゲットパンの籠なぞは、テーブルに載りきらず、整頓する間しばらく膝の上に置いておいた。
二種類のドレッシング、私はしょうゆではなくオリジナルの方を使用する。
そして、籠にはフォークが一本。
箸が欲しい。
店員さんに訊くと、その拍子に白いご飯はないか訊きそうになるのでやめた。
サラダを平らげて、いよいよヒレカツ。
最後の一枚になって冷めてしまっては興醒めだから、時間との戦いだ。
幸いにも、グラタンは熱い容器に納まっているので、時間差で食べ進めて行けば良い。
二枚目のヒレカツでもう上顎を火傷してしまったのはご愛嬌。
口の中は私のアキレス腱である、どのように鍛えても鍛えきれない。
ええいままよ、とグラタンを味見。
チーズたっぷりでとっても美味しいが物凄く熱い、そっとしておこう、当分冷めるまい。
さて、つい気になって注文した茹で卵だが、殻を剥きながら着想あり。
これにオリジナルドレッシングかけて食べたら、擬似タルタルソースになるぞ。
茹で卵を半分に切り、断面にドレッシングをかける。
ヒレカツに追っかけていただく。
ひ、ひ、ひ、思わず下卑た笑いが心の中で巻き起こる。
ロビン・フッドがいねェなら——ロビン・フッドになればいい。
丸パンは十字に切り込みが入れられ、バターが載る。
この数を二つに設定したのはコメダさん絶妙だ。
もっと食べたくなって陥穽に転落するのが後を絶たない。
案ずることなかれ、コメダグラタンとバゲットで応じる。
仕舞いにデザート代わりのモーニングトースト。
会計を見て珈琲が余計だったと思ったから何にもならない。