蒸し暑さも耐えきれない程ではなくなった晩夏。
恵比寿駅前の広場にて、盆踊りの光景が記憶を逆照射した。
18:40、乾杯してスタートする我々を幼児が眺めていた。
先月はステージが置かれていたこの場所を向こうへ進む。
小洒落たお店、いかにも恵比寿って感じだ。
思わず成城石井が正常に感じられてしまう。
路地入ってすぐ、先月のゴールだった居酒屋のたつやさん。
やきとんをやきとりと称している(詳細は先月の記事を参照してほしい)。
ここは右手に折れず、左方向へ。
前進方向の右手は坂道になっている。
早くも駅前感が希薄になってしまった。
坂を上がる。
やけに主張する。
魚まみれ眞吉さん、メニューは値が張る方。
ここいら右手のビルにスターダストプロモーションさんがあるらしい、名前くらいは知っていた。
まるで誘蛾灯である。
調べてみると、マーサーカフェ・ダンロさんというらしい、イタリアンのお店だ。
いつもの光景。
最近はこういう道を真空地帯と呼ぶようになった。
真空地帯と真空地帯とで、中古屋さんを挟んでみた。
店舗の違和感というか、目を引く感じが伝わってかと思う。
中古屋さんを左折して、線路沿いに出ることができた。
ABCアメリカ橋ビルという建築物。
左手にかかっているのがアメリカ橋。
その橋から向こうに見えるのは、恵比寿ガーデンプレイスか。
この光景には見覚えあり。
近所にShunメンバーが勤めていた時、ここまで押しかけて誕生日を祝ったのだ。
近くのファミマでエロ本を買って、その綴じ込みのオマケが、スマホでVRを楽しむためのキットだった。
すたみなばし、焼肉屋みたいな読み間違え。
アメリカ橋というのは愛称のようだ。
フェンスの目を縫って線路の光景。
この周囲は見晴らしがよく、恵比寿スカイウォークといいレンガ様に統一された一連の建築物群が小気味良い。
Shunメンバーの所へ押しかけた時には、この公園でShoと時間を潰していた。
今ならMTGアリーナでいくらでも時間を潰せるが、当時はストロングゼロくらいしか頼れるものがなかったし、それは飲みすぎると後に悪影響が出るし、難儀だった。
金が無かったのである。
タワマン?オフィスビル?
いずれにせよ、恵比寿恵比寿している。
俺はこういうのは社会人になる前から放棄してしまったのだ。
二十代の頃はそう判断した自分が恨めしかった。
前を向いて進む。
ここでShoが色めき立った。
「恵比寿の住人は地下シェルター完備か、結構な事ですな。マザー3でポーキーが乗ってた絶対安全カプセルに見える」
「おい、アレ見ろよ!巨大コンセントで大型メカの充電でもするんじゃねえか?」
ここの先を一度右折して迂回する。
さて、ここはどこだろうか。
目黒三田通りに出た。
出発からすでに三十分が過ぎている。
左へ向いて目黒駅方面へ。
「俺、水素って見るとドギマギするんだよ」
Shoの父親が引退前最後の仕事にしていたのが、水素水発生装置の製作と販売だったのだ。
仲間内では『詐欺まがい』と揶揄したものである。
モン・サン・ミシェルと言えばオムレツだが、ここのお店では良く見るとムール貝と書かれている。
調べてみれば、モン・サン・ミシェルはムール貝の産地としても名高いのだそうだ。
へぇぇ、狭かった視野が広がったのは嬉しい。
ここを通りかかったときには、やはり「詐欺まがい」と二人して声にしていたのではあるが。
道沿いが賑やかになってきた。
次の街の予感がする。
街と街とを、道がつないでいる。
左手はすぐ駅前だ。
創業月だからと言って出玉が良いとは限るまい。
詐欺まがい。
ゴール、19時20分。
この日の支払いはJunなので、お店の選択も私が行ったのだが、事前に四つほど目星をつけておいた所はどれも閉まっていた。
そのため、彷徨うことさらに二十分。
我々にとって、今や目黒は恨めしい街となりつつあった。
だが、こちらの居酒屋たつみやさんとの出会いで、万事解決した。
とくにこの鯛カマ、四百円。
安い、二皿目も注文した。
目黒価格の予想を下回る良店で満足し、夜は更けた。